SECとバイナンス訴訟完全解説
2023年開始から2025年5月の訴訟取り下げまでの全経緯
この記事でわかること
基礎知識:SECとバイナンスとは?
SEC(証券取引委員会)
正式名称:U.S. Securities and Exchange Commission
役割:アメリカの証券市場を監督・規制する政府機関
設立:1934年
主な任務:
- 投資家保護
- 市場の公正性維持
- 証券法の執行

バイナンス(Binance)
設立:2017年
創設者:Changpeng Zhao(CZ)
事業:世界最大級の暗号資産取引所
特徴:
- グローバル展開
- 多様な暗号資産の取扱い
- 高い取引量
訴訟の発端:2023年6月5日

SEC、バイナンスに対し13の罪状で提訴
2023年6月5日、SECはバイナンス、その米国関連会社、および創設者のChangpeng Zhao(CZ)に対して、証券法違反の疑いで民事訴訟を提起しました。この訴訟は、暗号資産業界における最大規模の規制案件の一つとなりました。
SECが指摘した主な問題点
1. 無登録での運営
- • 証券取引所としての無登録運営
- • ブローカー・ディーラーとしての無登録営業
- • 清算機関としての無登録運営
2. 米国顧客への違法サービス提供
- • 公式には米国顧客を制限していると主張
- • 実際には高額取引顧客の継続利用を密かに許可
- • 自社の規制回避システムを意図的に構築
3. 顧客資産の不適切な管理
- • 顧客資産の混同(コミングリング)
- • CZ所有の「Sigma Chain」への資産転送
- • 第三者企業「Merit Peak Limited」への資産送金
4. 市場操作と虚偽表示
- • 取引量の人為的な水増し
- • 関連マーケットメーカーによる操作的取引
- • 存在しない取引監視システムについての虚偽表示
5. 証券の無登録販売
- • BNBトークンの無登録販売
- • BUSD(Binance USD)ステーブルコインの無登録販売
- • 「Simple Earn」「BNB Vault」レンディング商品の無登録提供
- • Binance.USでのステーキングサービスの無登録提供
訴訟の詳細な時系列
2023年6月5日
SEC、バイナンスとCZに対して民事訴訟を提起
13の罪状でワシントンD.C.連邦地方裁判所に提訴。訴訟番号:1:23-cv-01599
2023年6月〜12月
初期の法廷手続きと答弁書提出
バイナンス側が答弁書を提出し、SECの主張に対する反論を展開
2024年1月22日
重要な裁判所審問開催
Jackson判事による長時間の審問が行われ、SEC・バイナンス双方の弁護士に詳細な質問が行われる
2024年6月
SEC、一部指摘事項を取り下げ
BUSDとSimple Earnプログラム、BNBの販売に関する一部の申し立てをSECが取り下げ
2024年10月16日
SEC、修正訴状を提出
SECが訴状を修正し、一部の主張を調整
2025年2月11日
60日間の手続き停止要請
トランプ政権の暗号資産政策の方向性が明確になるまで、双方が60日間の手続き停止を要請
2025年5月29日
訴訟の完全取り下げ
SECとバイナンスが共同で訴訟取り下げの動議を提出。偏見を持って(with prejudice)の取り下げのため、同じ主張での再提訴は不可能
Changpeng Zhao(CZ)の刑事事件

Changpeng Zhao(CZ)- バイナンス創設者
司法省による刑事訴追(並行事件)
SECの民事訴訟とは別に、米司法省もバイナンスとCZに対してマネーロンダリング防止法(Bank Secrecy Act)違反で刑事訴追を行いました。
2023年11月
CZが罪状認否で有罪を認め、CEO職を辞任。バイナンスは43億ドルの和解金を支払い
2024年4月30日
CZに4ヶ月の懲役刑が言い渡される(検察は36ヶ月を求刑していた)
2024年9月27日
CZが4ヶ月の服役を終えて釈放される
現在
CZは自由の身となり、パキスタンの暗号資産評議会のアドバイザーに就任
2025年5月:訴訟取り下げの背景
なぜSECは訴訟を取り下げたのか?
トランプ政権の暗号資産政策転換
2025年1月に就任したトランプ政権は、暗号資産業界に対してより友好的な姿勢を示し、規制方針の大幅な見直しを実施
SEC新体制の方針転換
Paul Atkins氏が新委員長に就任し、執行重視から規則策定・業界との対話重視へと方針を転換
司法省との和解完了
より重大な刑事事件が43億ドルの和解で解決済みであり、民事訴訟を継続する必要性が低下
業界の成熟と政治的配慮
暗号資産業界の急速な成熟と、トランプファミリーの暗号資産事業との関係性への政治的配慮
重要なポイント
訴訟は「with prejudice(偏見を持って)」で取り下げられました。これは、SECが同じ主張で再度訴訟を提起することができないことを意味し、バイナンスにとって完全な勝利を意味します。
トランプ政権の暗号資産政策
主要な政策変更
積極的な執行活動を終了
銀行の暗号資産保有を制限していた会計規則を撤廃
執行よりも規則策定と業界協力を優先
トランプファミリーの暗号資産事業
$TRUMPトークン
市場価値24億ドル、供給量の80%をトランプ組織が保有
World Liberty Financial
暗号資産銀行を目指すプロジェクト、利益の75%がトランプファミリー関連団体に
USD1ステーブルコイン
バイナンスがUAEの国営ファンドMGXから20億ドルをUSD1で受け入れ
暗号資産業界への影響
市場への影響
- • 規制の明確化への期待
- • 投資家信頼度の向上
- • 暗号資産価格の安定化
- • 機関投資家の参入促進
企業への影響
- • 取引所の運営安定化
- • 新規事業展開の促進
- • コンプライアンス負担軽減
- • 米国市場への再参入
ユーザーへの影響
- • サービス選択肢の拡大
- • 手数料の競争による低下
- • セキュリティ向上
- • 新商品・サービスの提供
他の暗号資産関連訴訟の状況
Ripple(XRP)訴訟
2020年から続く訴訟も、バイナンス訴訟取り下げを受けて和解または取り下げの可能性が高まっている
Coinbase訴訟
2023年6月に提起されたCoinbaseに対する訴訟についても、同様の方針転換が予想される
Kraken関連
Krakenに対する調査や潜在的な執行措置についても、2025年4月までに自主的な停止または取り下げ動議が予想される
今後の展望と課題
ポジティブな展望
注意すべき課題
Hester Peirce SEC委員のコメント
「私たちは明確な規則が存在しない状況から脱却し、規制ツールを使用して規則を策定し、その後その規則を執行するという方向にステップを踏み出そうとしています。詐欺師が『暗号の名の下に人々をだます自由なパス』を得たと考えるべきではありません。」
まとめ:SECとバイナンス訴訟の結末
訴訟の経緯まとめ
開始:2023年6月5日のSEC提訴
争点:13の証券法違反の疑い
期間:約2年間の法廷闘争
結果:2025年5月29日の完全取り下げ
業界への意義
規制転換:執行から対話重視へ
市場影響:投資家信頼度の向上
政策変更:暗号資産親和的な政権
将来性:明確な規制フレームワーク策定への期待
重要なポイント
「With Prejudice」での取り下げ
再提訴不可能
政策転換の象徴
業界との協調重視
業界の転換点
新たな成長フェーズへ
参考資料・関連リンク
免責事項:この記事は教育・情報提供目的で作成されており、投資アドバイスではありません。暗号資産投資には高いリスクが伴います。投資判断は自己責任で行ってください。
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